公務員の教師でも副業していいの......?
国家公務員は国家公務員法、地方公務員は地方公務員法によって、副業が原則禁止されています。
条職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。ただし、非常勤職員については、この限りでない。
地方公務員法 営利企業への従事等の制限 第三十八条
しかし、公務員でも合法的に副業を可能にする方法が2つあります。
教師が副業する方法
- 所轄庁の長や任命権者の許可を得て行う
- 家族の事業を無報酬で手伝う
この記事は、実際に教育公務員だった僕が、上記2つの注意点や実際に行う際の手続き等を解説します。
教育公務員が副業する方法
公務員である教員も合法的に副業を可能にする方法が2つあります。
教師が副業する方法
- 所轄庁の長や任命権者の許可を得て行う
- 家族の事業を無報酬で手伝う
所轄庁の長や任命権者の許可を得て行う
公務員が副業を行うには、法律で定められた制約を遵守しつつ、所轄庁の長や任命権者の許可が得られるように、適切な手続きを踏む必要があります。
教師の場合、勤務先の教育委員会が任命権者となることが一般的です。
許可が下りるかどうかは、自治体ごとに異なり、基準は曖昧なのが現状です。
ちなみに、公務員の中でも教師は比較的副業の許可がおりやすい職業と言えます。
なぜなら、教師は「教育公務員特例法 17条」があるためです。
教育公務員は、教育に関する他の職を兼ね、又は教育に関する他の事業若しくは事務に従事することが本務の遂行に支障がないと任命権者において認める場合には、給与を受け、又は受けないで、その職を兼ね、又はその事業若しくは事務に従事することができる。
教育公務員特例法 第17条
要は「教育に関する職業」に関しては、副業許可がおりやすいということです。
許可された具体的な副業例
本の執筆
教育関連の書籍や記事、ブログの執筆活動は許可されやすい副業の一つです。
現役小学校教諭である松下隼司さんは、絵本「せんせいって」を出版されています。
学校の先生が、いつもどんな仕事をしているかを題材にした絵本です。
このように、教育現場での経験を活かした内容であれば、社会的にも意義が認められ、許可が通りやすいといえます。
ブログの運営
ブログの運営も、教育関係であれば許可されやすい副業の一つです。
ただし、教育公務員には、秘密を守る義務があります。
職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。
地方公務員法(秘密を守る義務)第三十四条
そのため、「児童生徒・保護者・職員」「勤務地」などの情報を、運営するブログで一切公開しないことを事前に説明しておけるとよいでしょう。
実際に公立教諭で、ブログの副業許可を得た方のこちらの記事は、兼業許可申請の参考になります。
指導員
地域の教育活動に貢献する形で、スポーツ指導員や文化活動指導員として働くことも可能です。
最近では、土日祝日の部活動を地域活動に移行している地域もあります。
そこで、教員が土日祝日に副業として指導員を行っている場合もあります。
僕が教員をしていた地域では、むしろ教育委員会が積極的に指導員の副業を進めていました。
部活指導や授業で身につけたスキルをそのまま活かせるため、比較的始めやすい副業といえます。
講演会・教室開催
地域貢献の度合いが高い講演会や教室の開催は許可を得やすいです。
教師ではありませんが、公務員の兼業として「産後ケアトレーニング教室の開催」という事例が神戸市にあります。
兼業申請は、前例がないという理由で許可が下りないことも多いので、このような事例を調べておけるといいでしょう。
農業や漁業
自営で行う農業や漁業は、任命権者の許可を得れば兼業可能です。
ただし、農業求人情報サイト「農業ジョブ」調べによると、公務員が行う農業の兼業は、以下のような傾向があるようです。
- 自給目的の小規模農業であれば認められやすい。
- 農業が盛んなエリアであれば、比較的規模が大きい農業でも認められやすい。
- 「職務との関連性が高い場合」や「時間や報酬が大きい場合」は認められにくい。
大規模でやるには条件が限定的で、小規模な農業でないと兼業申請が通りにくいようです。
非営利団体での兼業
教員ではありませんが、公務員が非営利団体で兼業を行った事例があります。
- 商業活性化支援(山形県新庄市)
- 障がい者支援(佐賀県佐賀市)
- 岐阜県BBS連盟の会長(岐阜県山県市)
- 無料学習塾の講師
これらは、以下のような兼業許可制度の目的に基づいて認められた事例といえます。
①公務の遂行に支障が生じないこと:週休日、年次有給休暇等を活用すること
②職務の公正を確保できること:兼業先が非営利団体であること
③職務の品位を損ねるおそれがないこと:報酬が社会通念上相当であること
総務省 社会の変革に対応した地方公務員制度のあり方に関する検討会 働き方分科会(第1回)資料3 地方公務員の兼業について
それぞれの事例の詳細を見ると、やはり報酬目的ではなく、「社会貢献」や「公務へのフィードバック」としての意味合いが強い副業と言えます。
商業活性化支援(山形県新庄市)
活動内容:主任級の職員が補助金に頼らない商店街活性化に取り組もうと、地元NPO法人「アンプ」の理事長として商店街活性化の活動に従事。
活動時間:年50回程度(週休日、年次有給休暇等)
報酬:月間3万円程度
障がい者支援(佐賀県佐賀市)
活動内容:主事級の職員が誰もが暮らしやすい共生社会を実現しようと、任意団体「○○(まるまる)な障がい者の会」の代表として障がい者の支援活動に従事。
活動時間:週2~3日程度(週休日、年次有給休暇等)
報酬:月間2万円程度
岐阜県BBS連盟の会長(岐阜県山県市)
活動内容:課長補佐級の職員が、社会適応に悩む少年少女の更正や保護を行う団体「岐阜県BBS連盟」の会長として活動。児童養護施設を訪問し、相談受けるなどの支援を行っている。
※BBS:Big Brothers and Sisters Movementの略
活動時間:月1~2回程度(勤務時間外、年次有給休暇等)
報酬:日額1万円程度(交通費含む)
無料学習塾の講師
活動内容:主査級及び技師職の職員が、中学生の学習習慣の確立及び学力向上を目的とした無料学習塾の学習支援員補助として活動し、主に数学の講師を務める。
活動時間:月3回程度(講義は土曜)
報酬:日額6千円程度
総務省 社会の変革に対応した地方公務員制度のあり方に関する検討会 働き方分科会(第1回)資料3 地方公務員の兼業について
許可を必要としないもの
収入を得るからといって、必ず兼業申請許可が必要というわけではありません。
以下はそもそも「許可を必要としない」です。
許可を必要としないもの
- 単発の講演活動
- 消防団の活動
- 社会活動などの実費弁償
- 不要品の売却
- 一定規模以下の不動産
- 一定規模以下の売電
- 株式・FX・仮想通過などの投資
上記の事例は、こちらの記事にまとめました。
部活動の審判報酬や単発の講演会など、許可なしで行えることは、あまり継続性がないものが多いです。
僕も部活動の審判員として報酬を得ていましたが、実質半日拘束で2,000円でした......。
手順
次は、副業許可を得るための具体的な手続きについて解説します。
① 副業内容の選定
先ほどの例のように、許可される可能性が高い副業を選びます。
公務員の信用を損なわない内容であることが重要です。
② 申請書の提出
副業の内容、勤務時間、収入の見込みなどを明記した申請書を教育委員会に提出します。
兼業許可申請のフォーマットや名称は、所属する自治体によって異なります。
フォーマットはHPから簡単に手に入る場合もあるので、一度自分の自治体のHPを確認してください。
フォーマットが見つからない場合は、学校の事務職員か管理職に相談すれば手に入るはずです。
申請書の記入内容も自治体ごとに様々ですが、奈良県生駒市を例に見てみましょう。
生駒市の兼業許可申請書の名称は、「営利企業等従事許可申請書(兼変更許可・許可取下申請書)」となっています。
営利企業等従事許可申請書(兼変更許可・許可取下申請書)
■営利企業、団体等の名称
■営利企業、団体等の所在地
■営利企業、団体等の事業形態
■従事する業務[職の名称・職務の内容と責任の程度・期間等・報酬(無給か有給か)]
■営利企業等に従事を必要とする理由
■本務に与える影響
■その他備考
■所属長の意見
生駒市は、「営利企業等従事許可申請書(兼変更許可・許可取下申請書)」に合わせて、「活動実績・計画報告書」の提出も義務付けられています。
活動実績・計画報告書
■1 許可通知の年月日・文件番号(すでに許可を受けている場合のみ)
■2 活動実績について
・直近1年間の活動内容の詳細(活動日・活動場所も必ず記載すること)
・これまで受けた報酬の支払者・金額・累計額
・活動の成果(いかに地域貢献につながったかなど)
■3 今後の活動計画・見込みについて
・活動内容(予定)の詳細(活動日・活動場所も必ず記載すること)
・報酬の支払者・見込額・累計見込額(金額の記載は前頁の例のとおり)
・活動で見込まれる成果(いかに地域貢献につながると見込まれるかなど)
■4 活動に伴う職務の遂行への支障、職務の公正の確保・職員の品位の確保等について
・本来の職務の遂行への支障の有無と、その理由
・職員の占める職と当該活動先団体との間の関係性の有無(関係性が有る場合はその内容を、関係性が無い場合はその理由も併せて記載)
・職員の占める職の信用の保持及び職全体の名誉を損なうおそれの有無と、その理由
■その他参考事項
■所属長の意見
なお、この「活動実績・計画報告書」は、兼業の許可が認められた場合、毎年度提出する必要があります。
また、「営利企業等従事許可申請書(兼変更許可・許可取下申請書)」「活動実績・計画報告書」以外に、「任命権者が必要と認める書類」があれば、そちらも提出しなくてはいけません。
③ 審査と許可
教育委員会が申請内容を審査し、許可を出すかどうか判断します。
許可が下りるまで副業を開始してはいけません。
注意点
公務に支障を来さないこと
副業は勤務時間外に行い、教師としての信用を損なわない内容であることが求められます。
定期的な報告
許可後も、副業の進捗や収入状況を定期的に報告する必要がある場合があります。
先ほど例に挙げた生駒市の場合は、毎年度2月末日までに「活動実績・計画報告書」を提出しなければなりません。
家族の事業を無報酬で手伝う
家族の事業を無報酬で手伝うことは、公務員の副業規制に該当しません。
たとえば、家族が店舗やオンラインショップを運営している場合、その事業を支援する形が考えられます。
家族の事業を手伝うことで、自分の収入は増えませんが、世帯収入が増えるという方法です。
僕も教育公務員時代に、妻の事業を手伝って世帯収入を増やしていました。
兼業許可申請は、許可が下りるかどうかわからないの対して、こちらは誰からも許可をもらう必要がないおすすめの方法です。
手順
① 活動内容の明確化
家族の事業をどのように手伝うのか具体的に決めます(例:商品の梱包や発送、経理補助)。
② 無報酬であることの確認
公務員規定上、収入を得ないことが条件です。
収入はすべて事業を運営する家族の口座に入るよう設定します。
一旦自分の口座に収入が入ってしまった場合も、事業者である家族の口座に移せば問題ありません。
ただし、税務調査が入った場合、なぜ自分の口座を一旦経由したのかという理由を明確に説明できるようにしておいてください。(例:取引先の対応を自分がお手伝いしていたため)
お金の流れについてわからないことがあれば、税理士に相談することをおすすめします。僕は何度も税理士に相談しました。
③ 申告の準備
自分はあくまで無償のお手伝いをしているだけなので、事業主である家族が確定申告を行う必要があります。
ちなみに、確定申告をするなら確定申告アプリのタックスナップがおすすめです。
タックスナップとは、個人事業主・フリーランス向けの確定申告アプリです。
- スマホだけ、スワイプだけで仕訳ができる
- 月額980円(無料期間あり)
- 税理士のリスクチェックサービスあり
- AIが優秀(勘定科目判定、経費になるかのチェック、税務調査リスクの判定)
教師は、医療費控除やはじめて住宅ローン控除を受けるときのように、限られた状況しか確定申告をしません。
そんな、確定申告慣れしていない教師でも、簡単に青色確定申告ができるのがタックスナップです。
注意点
自分の収入は増加させない
家族の事業収入が増えれば、結果的に家庭全体の収入が向上します。
ただし、公務員本人には直接的な収入が発生しないよう注意しましょう。
記録の管理
活動内容や無報酬であることを記録しておくことで、トラブル回避につながります。
とにかく注意点は、自分はあくまで事業の一部の「お手伝い」をしているということです。必ず家族が「事業主」になるようにしてください。
まとめ
公務員が副業を行う際は、所轄庁や任命権者の許可を得る方法と、家族の事業を無報酬で手伝う方法の2つが現実的な選択肢です。
教師の場合でも適切な手続きを踏めば、法律の枠内で副業を行うことが可能です。
副業を通じて得られる経験や知識は、公務員としての職務にも役立つ可能性があります。
ルールを遵守しながら、より豊かな生活を目指してみてはいかがでしょうか。
『教師の年収アップNavi』は、他にも教員の副業やお金についての役立つ情報を発信しています。
参考になれば幸いです。